知識には

2種類ある。一方は辞書的知識であり、もう一方はモデル=メカニズム=シミュレーション的知識である。辞書的知識は、知識がkey:valueのカタチで並んでいて、ある状況に対してほぼ一意に対応する解決が与えられる類のものである。この場合、人間側にはせいぜい読み書きソロバンといった知識があればよい。適切なkeyさえ選べば(この部分に特有のスキルが必要となる場合がある)、解決はほぼ自動的に与えられ、世界を拡大出来る。これに対し、もう一方のモデル=メカニズム=シミュレーション的知識は、モノ/コトバ間の静的もしくは動的な関係について述べた知識である。どれを主要な要素として選ぶか、どの側面を関係として取り扱うか、そしてそれらの関係性が実際の振る舞いとうまく対応するか、といった部分が問われ、取り扱うためには抽象化/具象化及びパターンマッチングの能力が要求される。こういった知識は、対象の変化が激しい場合、その変化にあわせて知識も適切に変化させることがしやすいため、(適切な運用能力があれば)汎用的であるが、習得には時間がかかる。このため、ある程度固まったモデル的知識に対しては、決まった観点より整理した情報に特定のキーワードを与えることで辞書的知識に落とし込み、伝達難易度を下げることが可能である。これにより、知識を運用する上でスキルを問う必要がなくなる。しかし、この段階で、元のモデル=メカニズム=シミュレーション的知識が持っていた応用可能性は失われ、死んだ知識となる。このため、複雑性と変化率の双方が高いような領域に対しては、その辞書的知識は応用可能性が狭くまた陳腐化が早いため役に立つ可能性は非常に低いものとなる。また、その実質的側面が失われ、適切な適用範囲が見失われ、本来想定できない対象に対して知識が適用されてしまうという可能性も出てくるのである。